私のストール
デスクトップパソコンを置くテーブルがどうしても必要になった。
今までは食卓テーブルの上でノートパソコンを置いて使っていたが
場所をとるデスクトップでは、そういうわけにはいかない。
邪魔だけでなく食事や飲み物がこぼれたことを考えると、大変まずい状況だ。
ここでもやはり”先立つもの”が私の前に立ちはだかるが必要なものは仕方がない。
想定予算をくみ、いつも覗く家具屋へ行ってみた。
この家具屋は、一風換わった輸入家具からインテリア小物まで揃う店で
結構センスのいいものが比較的求めやすい金額で販売されている。
また、少々キズや難のあるアウトレット商品コーナーもあるのでありがたい。
以前、どこにキズがあるんだかわからないようなセンターテーブルが
とんでもない破格で販売されていたので
意気揚々と次の日に買いに行ったら既に売れていた、という苦い体験がある私は
「良いものは衝動買い」と心に決め、店に乗り込んだ。
店内は多くの家具類で埋め尽くされている。
自分の目当てのものだけでなく隅々まで商品を見て歩く。
こういったウィンドーショッピングって、とても楽しい。
この椅子はあそこ、この小物はあんなふうに使ってetc
好き勝手な妄想で、バーチャル空間をイアンテリアコーディネートしニヤニヤする私。
いかんいかん。まずは必要な商品を見つけなくては。
テーブルコーナーへ足早に進み、自分のイメージに近いものを捜す。
私の中では、見るからに”パソコンデスク”ではなく
パソコンが置けるくらいのこじんまりした机を目当てにしていた。
あれやこれやと物色するうちに、隅っこにある白いテーブルが目に入った。
おそらく二人用の食卓テーブルだ。
近寄ると、木目が透けるくらいに白いペンキを塗っただけのそっけない外観だ。
べったりと真っ白い家具はあまり好きではないが、この白さはあまり気にならない。
この塗り方は意図なのか雑なのかはわからないが、雑なら雑で悪くない。
足もシンプルな造りで、手持ちの椅子が入りそうな間隔があいている。
少々小さい気もするが、置く場所に考えている部屋の隅には確実に収まりそうだ。
「少し気に入らないところはあるけれど悪くはない。でも、これいくらかな」
徐に金額を確認する。「えっ、嘘」一瞬目を疑った。
なんと『3000円』の値札がつけられていた。
『買うっきゃない!』
面白いもので、商品を選ぶ場合、自分の想定金額より高い場合には難が目につき
逆に安い場合には難が気にならなくなる、つまり妥協のボーダーラインがある。
今回は後者のケースで、金額を見た途端に嫌な部分がすべてなくなった。
他にも配送料2000円の札も貼ってあったが配送なんて必要ない。
自分で運んで担いで帰ればいいのだ。
テーブルを購入し自分で運ぶことを伝えると、男性店員さんが車まで運んでくれた。
さらに「女性では大変でしょう。私が車に積み込みますから」と
シートを倒して、後ろからテーブルを上手に押し込もうとしている。
「なんて親切なんでしょう」と感激の私。
そのとき忘れ物をしたことに気づいた私は店員さんにお願いをして店内に戻った。
そして車へ戻ったときには、テーブルは車内に収められ出発準備は万端だった。
「ご親切にありがとうございました」と丁寧にお礼を言って、店を後にした。
快調に車をすすめていたが、何の気なしにバックミラーでテーブルを見たとき
ふとしたものが目に入った。
「あれは、何?」テーブルに何かが巻かれている。
よく目を凝らしてみると、見慣れた模様に気がついた。
「あっ、私のストール!それも、エトロの(泣)」
それは10年程前に「一生ものだから」と自分に言い聞かせて
大枚はたいて買った大切な大切なストールである。
お金のことで下世話だが、おそらくテーブルの20倍以上の金額だったと思う。
その私の一張羅のストールが、無造作にテーブルに巻かれていたのだ。
犯人(?)は先ほどの店員さんに間違いはない。
おそらく彼は後部座席に置いてあるストールが、毛布か膝掛けに見えたのだろう。
悪気があったどころか、商品に傷がつかないように良かれと思ってやったのだろう。
彼は今頃、「テーブルを保護できるものがあってよかった」と
「自分のしたことをお客さん(私)も喜んでいるだろう」と思っているのだろうか。
ただ、残念ながら、彼はエトロのストールを知らなかっただけのことなのだ。
そんなことを考えながら「まっいいか」と諦めることにし、家までそのまま走って帰った。
3000円のテーブルを保護する○万円のエトロのストール
こんなことがあっても、面白いのかもしれない。
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