気をつけて
自転車かごに食材をしこたま入れ
前にひとり、後ろにふたり、計三人の子どもを乗せた、母親を見た。
その後ろを幼稚園ぐらいの子、また後ろに小学年低学年のふたりの子どもが
必死に自転車で後を追いかけていた。
母親は後ろから来る子どもが気になったのだろう。
「大丈夫?早くしなさい」
と後ろ向きで大きな声で叫びながら自転車を止めた。
次の瞬間、私は息をのんだ。
自転車がよろよろとバランスを崩したのだ。
『わっ、危ない!』
道の反対側にいた私には成すすべもない。
おかしなもので、自転車に届くわけもないのに手を伸ばしながら
その光景を見つめていた。
まるでスローモーションでも見るように。
よろよろとよろめいた自転車を、なんとか踏んばり立て直そうとする。
こういった状況での子どもを守ろうとする母親には底力がある。
食材には目もくれず、子どもを支えることに集中している。
かごから食材がこぼれ落ちる。
しかし、母親は頑張った。
むんずと自転車を持ち上げ、最悪の事態は免れた。
『ああ、よかった』
人ごとながら、ほっと胸をなでおろした。
近くにいた人が、落ちたネギを拾って渡した。
母親は軽くお礼を言いながら受け取り、ネギを所定の位置に入れなおした。
「さあ、行くよ」
母親は自転車にまたがり、
家族は何もなかったように元の陣形で去って行った。
最近、自転車の複数乗りに対する規制が厳しくなった。
ふたり乗りは道路交通法違反で罰せられる。
メーカー各社で複数乗り自転車を開発しているが
高価格、利用勝手の不評から、あまり普及していないのも現実だ。
私も息子が小さい時は、自転車に乗せて移動した。
子ども用の座席を前に取り付け、スーパーマーケットへと向かった。
行きはまだ余裕があるが、帰りは荷物と息子の体重で
何度もヒヤッとすることがあった。
ひとりを乗せているだけでもこうだ。
しかしこの親子は、
母親+三人→なんと四人乗り、バランスが悪いどころの話ではない。
大げさに言えば、母親ひとりで子ども三人分の命を握っているのだ。
思わず背筋がぞっとした。
子ども五人を育てている、このおかあさんは立派だ。
少子化の現代において、なんてすばらしい。
小さな子どもを自転車に乗せて移動しなければならないことも
全員乗せることはできないので、
ある程度の年齢の子どもは自分で運転させなければならないことも、わかる。
ただ…
気をつけて。
走り去る親子の背中を見送りながら
思わず呟いた。
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